認知症の家族が精神科を勧められたら…「薬を増やすため」ではない精神科受診の意味

介護の知識

なぜ、精神科なの?

家族が認知症と診断され、妄想や興奮、不眠、幻覚などの症状が出てくると、医療機関から精神科の受診をすすめられることがあります。

しかし、精神科と聞くと、「精神科に行くほど悪くなったの?」「薬をたくさん飲むことになるのでは?」「認知症なのに精神科でいいの?」と不安になることもあるでしょう。

精神科を受診することは、必ずしも「薬を増やすため」ではありません。

特に高齢者の場合は、薬の効き方や副作用に注意が必要だからこそ、精神症状について専門的に評価してもらう意味があります。

認知症でも精神科が関わることがあります

認知症では、もの忘れだけでなく、妄想、幻覚、興奮、攻撃性、不安、抑うつ、睡眠の乱れなど、さまざまな症状がみられることがあります。

こうした症状は、本人にとってつらいだけでなく、家族や介護する人にとっても大きな負担になる場合があります。そのため、症状が強いときには、精神科などの専門医療機関に相談することがあります。

ただし、症状が出たからといって、すぐに薬を使うとは限りません。身体的な病気や痛み、睡眠、環境の変化、内服薬、本人の不安など、症状の背景にある原因を確認することも大切です。

精神科を受診する際に伝えるべきこと

診察では、本人が症状をうまく説明できないこともあります。そのため、家族や介護者が普段の様子を具体的に伝えることが役立ちます。

受診前に、次のような内容をメモしておくとよいでしょう。

症状について

いつ頃から症状が始まったのか、どのくらいの頻度で起きているのか、どの時間帯に起きやすいのかを整理しておきましょう。

妄想、幻覚、興奮、怒り、不安、抑うつ、不眠など、具体的にどのような症状があるのかも重要です。症状が起きたときの言動や、本人が訴えていた内容、症状によって本人や家族の生活にどのような支障が出ているのかも伝えましょう。

また、症状が起きる前に、痛み、発熱、便秘、排尿の変化、食欲低下などがなかったか、症状が落ち着くきっかけや悪化するきっかけがあるかも確認しておくと役立ちます。

服薬状況について

現在服用している薬の名前、量、回数を確認しておきましょう。薬を飲み始めた時期や、最近追加・変更された薬があるかどうかも大切です。

認知症の薬だけでなく、睡眠薬、抗不安薬、痛み止め、血圧の薬など、すべての服薬状況を伝えます。市販薬、サプリメント、漢方薬を使っている場合も忘れずに伝えましょう。

薬を飲んだ後に、眠気、ふらつき、転倒、ぼんやりする、会話が減るなどの変化がないかも確認します。薬の飲み忘れや重複服用がないか、薬を飲むと症状が改善するのか、変化がないのか、悪化するのかも医師に伝えるとよいでしょう。

受診時には、お薬手帳や薬の説明書を持参すると、服薬状況を確認しやすくなります。

生活上の変化について

昼夜逆転や夜間の徘徊があるか、睡眠時間や夜中に起きる回数が変わったかを確認しましょう。

食事量や水分摂取量、トイレの回数や失禁などの排泄、歩き方や転倒の有無にも変化がないか注意します。着替え、入浴、歯みがきなど、身の回りのことに変化があるかも重要です。

さらに、家族や介護者への態度、会話量、外出の頻度が変わったか、引っ越し、入院、施設入所、介護者の交代などの環境変化がなかったかも伝えましょう。近所の工事や騒音、季節の変化など、本人にとって気になる出来事が影響している場合もあります。

介護する家族がどの程度困っているのか、十分に休めているのかも、遠慮せずに伝えることが大切です。

症状を伝えるときは、「最近おかしい」「性格が変わった」とだけ伝えるよりも、「夜中に3回起きて、家の外へ出ようとする」「薬を変更してから日中も眠そうになった」など、具体的な出来事や回数、時間帯を伝えると、医師が状況を把握しやすくなります。

高齢者の薬は「効けばいい」だけではありません

高齢者では、若い人と同じように薬を使えるとは限りません。加齢によって薬の効き方が変わったり、複数の薬を服用していることで、薬同士の影響が生じたりすることがあります。

厚生労働省も、高齢者の薬物療法では、薬による有害事象に注意し、新しい症状が出現した場合には、薬剤が原因ではないかを検討することが重要だとしています。

そのため、症状を抑えられるかどうかだけでなく、薬によって日中の活動や歩行、食事、会話などに悪影響が出ていないかも確認する必要があります。

睡眠薬で「眠れるようになった」けれど……

たとえば、夜眠れず、昼夜逆転している高齢者に睡眠薬が処方されたとします。

夜に眠れるようになったとしても、薬の影響で翌日まで眠気が残り、ぼんやりしてしまうことがあります。高齢者では、特定の催眠鎮静薬について、過度な鎮静、認知機能の悪化、運動機能の低下、転倒・骨折、せん妄などのリスクがあるため、慎重な使用が必要とされています。

つまり、「眠れるようになったから、それでよかった」とは限りません。

日中の様子や歩行、食事、会話、認知機能なども含めて、その人全体を見ながら、薬の効果と副作用を考える必要があります。

薬が症状を複雑にすることもあります

高齢者に新しい症状が出たとき、「認知症が進行したからだ」と考えてしまうことがあります。しかし、薬剤が症状の原因になっている可能性もあります。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、薬剤によって、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄などが起こる可能性が示されています。

そのため、症状が悪化したときには、認知症そのものが進行したのか、身体的な病気が隠れていないか、環境の変化がなかったか、新しく薬が追加されていないか、薬の量や組み合わせに問題がないかなど、さまざまな可能性を考える必要があります。

精神科を受診する意味は「薬を増やすこと」ではない

精神科をすすめられると、「薬をたくさん出されるのでは」と心配になる方もいるでしょう。

しかし、専門医に相談することは、必ずしも薬を追加することを意味しません。

症状や生活状況、身体状態、現在服用している薬などを確認したうえで、薬が本当に必要なのか、現在の薬が症状に影響していないか、薬の種類や量を見直す必要がないかを検討します。

また、薬以外の対応ができないか、どの症状を治療の対象とするのかについても考えていきます。

厚生労働省の指針でも、認知症に伴う行動・心理症状については、身体的・心理的・環境的な要因を検討し、薬剤が原因と考えられる場合には原因薬剤の中止を検討したうえで、必要に応じて薬物療法を検討するという考え方が示されています。

「もっと早く相談すればよかった」とならないために

精神科という言葉に抵抗があり、受診を先延ばしにしてしまうこともあるかもしれません。

もちろん、すべての認知症の人が精神科を受診する必要があるわけではありません。

しかし、妄想や幻覚、強い興奮、不眠などによって本人の生活や家族の生活に大きな支障が出ている場合には、早めに医療機関へ相談することで、症状の原因や治療について整理できることがあります。

特に高齢者の薬物療法では、「症状を抑えること」だけでなく、「薬による不利益が起きていないか」を一緒に考えることも大切です。

精神科受診は「薬を増やすため」ではなく、治療を整理するため

「認知症なのに精神科?」と思うのは、決して不思議なことではありません。

しかし、認知症に伴う精神症状が強くなったとき、精神科が相談先の一つになることがあります。

精神科受診の目的は、薬を増やすことだけではありません。

本人にとって何が起きているのかを考え、必要な治療と必要のない治療を整理し、薬を使う場合にも、その効果と副作用を見ながら調整していくために専門医へ相談するのです。

「精神科に行くほどではない」と我慢するのではなく、本人や家族が困っている症状があるなら、まずはかかりつけ医や地域の相談窓口に相談してみましょう。

※この記事は一般的な情報を紹介するもので、特定の薬剤の使用や中止を勧めるものではありません。薬の変更・中止は自己判断で行わず、処方医に相談してください。

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