我慢していませんか?
「どうして私ばかり我慢しなければいけないんだろう」
職場で理不尽なことを言われても、相手の機嫌を考えて言い返せない。
仕事を頼まれると断れず、どんどん自分の仕事が増えていく。
嫌なことをされても、「これくらい我慢するのが普通なのかな」と自分に言い聞かせてしまう。
人間関係に疲れている方の中には、そんな経験をしている方も多いのではないでしょうか。
私はこれまで、医療・介護の現場でさまざまな人間関係を見てきました。
また、心療内科で勤務していると、職場での人間関係や仕事上のストレスを抱え、心身の不調から休職・退職を選択する方たちの支援にも携わります。
もちろん、休職に至る原因は一つではありません。
仕事内容、長時間労働、環境の変化、本人の体調など、さまざまな要因が重なっています。
ただ、その中で感じていたことがあります。
「もう少し早い段階で、自分と相手との境界線を意識できていたら」
そう思うケースが、決して少なくありませんでした。
そこで今回は、人間関係から自分の心を守るために知っておきたい「バウンダリー(境界線)」について紹介します。
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バウンダリー(境界線)とは?
バウンダリーとは、簡単にいうと、
「ここまでは私が引き受ける。でも、ここから先は相手の問題」
という、自分と相手との境界線のことです。
たとえば、
- 自分の時間
- 自分の体力
- 自分の気持ち
- 自分の価値観
- 自分が引き受ける仕事
などには、それぞれ限界があります。
その限界を無視して相手に合わせ続けていると、少しずつ自分が疲れていきます。
バウンダリーを引くというのは、相手を拒絶することではありません。
自分も相手も、一人の人間として尊重するための境界線をつくることです。
「いい人」ほど境界線が曖昧になりやすい
人間関係で疲れてしまう人の中には、責任感が強く、周囲への配慮ができる人がたくさんいます。
「断ったら嫌な人だと思われるかもしれない」
「相手も大変なんだから、私が我慢すればいい」
「職場なんだから、このくらいは仕方ない」
そうやって相手を優先しているうちに、自分の負担がどんどん大きくなってしまいます。
特に介護や医療など、人を支援する仕事では、「人の役に立ちたい」という思いが強い人ほど、無理をしてしまうことがあります。
しかし、
優しいことと、何でも引き受けることは同じではありません。
私が現場で見てきたこと
実際の現場では、責任感が強く、優しく朗らかで、周囲からも頼りにされている人が疲れ切ってしまうことがあります。
最初は、
「ちょっと疲れているのかな」
という程度だったものが、次第に眠れなくなったり、仕事に行くことがつらくなったりする。
それでも、
「自分が弱いだけ」
「みんな頑張っている」
と我慢を続けてしまう。
そして、ある日突然、
「もう仕事に行けない」
となってしまうこともあります。
心療内科で休職していく方たちを見てきた経験からも、心身の不調がかなり強くなってから相談に来る方は少なくありませんでした。
だからこそ、私は、
「限界まで我慢しないこと」
がとても大切だと感じています。
これは「嫌なことがあったらすぐ逃げましょう」という意味ではありません。
自分がどこまでなら大丈夫なのかを知り、無理なものについては早めに線を引く。
それも、自分を守るための大切なスキルです。
厚生労働省も、働く人のメンタルヘルスについて、セルフケアや相談窓口、職場復帰支援などの情報を提供しています。

今日からできる!バウンダリーの引き方
では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
難しいことをする必要はありません。
「嫌だ」と感じたことに気づく
まずは、自分の感情を無視しないこと。
「なんだかモヤモヤする」
「この人と話すといつも疲れる」
「また頼まれた……」
そんな小さな違和感を、そのままにしないでください。
感情は、自分の状態を教えてくれるサインになることがあります。
すぐに返事をしない
頼まれた瞬間に、
「はい、やります」
と言ってしまう人は、まず返事を保留する練習をしてみましょう。
例えば、
「確認してから返事します」
「今の仕事が終わってから考えます」
「少し時間をください」
これだけでも、自分で判断する時間を確保できます。
「できません」を練習する
バウンダリーを引くうえで、「NO」はとても大切です。
ただし、強く拒絶する必要はありません。
例えば、
「今日は難しいです」
「今は手が離せません」
「今回は引き受けられません」
というだけでも十分です。
断ることは、相手を否定することではありません。
「そのお願いには応えられない」というだけです。
長々と説明しすぎない
断ることに慣れていない人ほど、理由をたくさん説明してしまいます。
「本当はやりたいんですけど……」
「昨日も忙しくて……」
「家に帰ってからもいろいろあって……」
と説明しているうちに、自分でも「断ってはいけないのかな」と感じてしまうことがあります。
必要な説明はもちろん必要ですが、すべてを理解してもらおうとしなくても大丈夫。
「できません」と伝えること自体にも意味があります。
相手の機嫌まで自分の責任にしない
ここが、とても大切です。
自分が断ったことで相手が不機嫌になった。
だから、
「私が悪かったのかな」
と思ってしまう。
でも、
相手がどう感じるかまで、あなたがコントロールすることはできません。
あなたが丁寧に伝えたうえで相手が怒ったとしても、それは相手の感情です。
相手の感情と、自分の責任を分けて考えてみましょう。
介護現場で考えてみると
例えば、同僚から、
「これもお願い。あなたのほうが早いから」
と言われたとします。
いつもなら、
「わかりました」
と引き受けてしまうところを、
「今、○○の業務があるので、今回は難しいです」
と伝えてみる。
それでも頼まれたら、
「優先順位を上司に確認してください」
と、判断を自分一人で抱え込まない方法もあります。
大切なのは、
「全部自分で何とかしなければ」と考えないこと。
介護の仕事はチームで行うものです。
一人が無理をして成立するチームは、長く続きません。
バウンダリーは「相手を変える方法」ではない
ここは誤解しやすいところです。
バウンダリーを引けば、理不尽な人が急に優しくなるわけではありません。
むしろ、今まで何でも引き受けていた人が断るようになると、
「最近、冷たくなったね」
「前はやってくれたのに」
と言われることもあるでしょう。
でも、それで必ずしも失敗ではありません。
バウンダリーは、
相手を思い通りにするためのものではなく、自分の行動を決めるためのもの
だからです。
「相手が怒らないようにする」ではなく、
「相手が怒ったとしても、私はここまでは引き受ける」
と考える。
それが、自分の境界線を守るということです。
「我慢できる人」にならなくていい
仕事をしていると、どうしても我慢しなければならない場面はあります。
人間関係も同じです。
だからといって、
「我慢できる人ほど立派」
というわけではありません。
我慢を続けた結果、心や身体が限界を迎えてしまったら、元も子もありません。
私はこれまで、現場で頑張っている人たちをたくさん見てきました。
利用者さんのために一生懸命働いている人。
周囲のフォローまでしている人。
困っている人を放っておけない人。
そんな人たちが疲れ果てて、仕事を続けられなくなってしまう姿を見るのは、とてもつらいことでした。
だからこそ、
「頑張ること」だけではなく、「自分を守ること」も仕事を続けるための大切な力
だと思っています。
今日から一つだけ境界線を引いてみる
いきなり、すべての人間関係を変える必要はありません。
まずは一つだけ。
「これは本当は引き受けなくてもいいかもしれない」
と思っていることを見つけてみてください。
そして次に頼まれたとき、
「少し考えてから返事します」
と言ってみる。
それだけでも構いません。
自分の時間を守る。
自分の体力を守る。
自分の気持ちを守る。
その小さな積み重ねが、自分を守る境界線になっていきます。
まとめ
人間関係で疲れたとき、
「もっと我慢しなければ」
と考えるのではなく、
「私はどこまでなら大丈夫なんだろう?」
と考えてみてください。
バウンダリーは、相手を拒絶するための壁ではありません。
自分を大切にしながら、人と関わっていくための境界線です。
そして、もしすでに眠れない、食欲がない、仕事に行くことが非常につらいなど、心身の不調が続いている場合は、一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口などに相談してください。
厚生労働省の「こころの耳」では、働く人向けのストレスセルフチェックや相談窓口なども案内されています。
自分を守ることは、決してわがままではありません。
誰かを支える仕事を長く続けるためにも、まず自分の心を守ることを大切にしていきましょう。
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