賃金について考える
「介護の仕事は人手不足なのに、なぜ給料が上がらないの?」
「これだけ大変な仕事なのに、一般企業と比べると賃金が低い気がする」
介護や福祉の仕事をしていると、一度はこんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。
実際、医療・福祉分野では賃金の引き上げが進められている一方で、他産業との賃金差が残っています。
ファミレスのバイト募集の張り紙を見て、「もしかして、わたしの給料より高いんじゃ…」と思うことが最近はよくあります。
では、なぜ医療・介護・福祉の賃金は上がりにくいのでしょうか。
この記事では、一般職との賃金差にも触れながら、その背景を考えてみます。
医療・介護・福祉の賃金は本当に低い?
まず知っておきたいのが、「医療・福祉」という産業全体の平均と、介護職など個別の職種の賃金は同じではないということです。
医師や看護師、薬剤師、リハビリ職なども「医療・福祉」に含まれるため、産業全体の平均だけを見ると、介護職の実感とはズレることがあります。
そのため、介護職の賃金を考えるときには、職種別のデータを見ることも大切です。
介護労働安定センターの令和6年度「介護労働実態調査」では、月給制の介護職員の通常月の平均月収は232,560円でした。
これは賞与や残業代、休日出勤手当を除き、毎月支給される手当などを含む金額です。
一方、同じ調査における月給制労働者全体では、通常月の平均月収は248,884円でした。
単純に比較すると、
248,884円-232,560円=16,324円
となり、介護職員は労働者全体より月額で約1万6千円低い結果です。
もちろん、これは同じ条件の労働者同士を完全に比較したものではありません。
年齢、経験年数、勤務先、職種、資格、勤務形態などによって賃金は大きく変わります。
それでも、「介護職の賃金が他の仕事と比べてどうなのか」を考える一つの材料になります。
一般企業では賃金が上がっているのに?
近年は、物価上昇や人手不足を背景に、多くの業界で賃上げが進んでいます。
厚生労働省の「令和7年版 労働経済の分析」でも、幅広い産業で賃金が上昇していることが示されています。医療・福祉でも特別給与が前年より増加するなど、改善の動きはあります。
しかし、
「賃金が上がっている」ことと「他産業との賃金差がなくなった」ことは別の問題です。
介護職でも賃金は少しずつ上がっています。
それでも、
他の業界も賃金が上がる
↓
介護職も上がる
↓
でも差が縮まらない
ということが起こり得ます。
なぜ医療・介護・福祉の賃金は上げにくいのか?
大きな理由の一つが、サービスの価格を事業者が自由に決められないことです。
一般企業であれば、
「原材料費が上がった」
「人件費が上がった」
「人材を確保するために給料を上げたい」
となれば、商品の価格を上げるという選択肢があります。
もちろん簡単なことではありません。
しかし、基本的には企業が価格を決めることができます。
一方、介護サービスには「介護報酬」という公的な価格設定があります。
医療には「診療報酬」、障害福祉には「障害福祉サービス等報酬」があります。
つまり、
「人件費が上がったから、明日から介護料金を10%上げます」
ということは簡単にはできません。
これが、医療・介護・福祉の賃金問題を考えるうえで非常に重要なポイントです。
人手不足なのに、なぜ給料を上げられない?
一般的な市場では、
人手不足
↓
企業が人材を取り合う
↓
給料を上げる
↓
人材を確保する
という流れが起こります。
ところが介護では、サービス価格を自由に上げられません。
そのため、
人が足りない
↓
給料を上げたい
↓
でも収入を自由に増やせない
↓
経営上、賃上げに限界がある
という問題が起こります。
これは「介護職の仕事に価値がないから」という話ではありません。
むしろ、介護は生活に欠かせないサービスだからこそ、公的な制度の中で価格が決められているのです。
介護職員の処遇改善も行われている
「では、国は何もしていないの?」
というと、そうではありません。
介護職員の賃金改善を目的として、介護職員等処遇改善加算が設けられています。
介護事業所が一定の要件を満たして加算を取得し、その収入を職員の処遇改善などにつなげる仕組みです。
つまり、介護職の賃金を上げるための政策はすでに行われています。
ただし、
処遇改善加算がある=すべての介護職員の給料が同じように大幅アップする
というわけではありません。
事業所の状況や職員間の賃金バランスなど、さまざまな要素が関係します。
「介護職だけ上げればいい」では解決しない難しさ
ここにも難しい問題があります。
介護現場には、
- 介護職員
- 看護職員
- リハビリ職
- ケアマネジャー
- 相談員
- 事務職
- 管理職
など、さまざまな職種が働いています。
介護職の賃金を上げれば、他の職種とのバランスも考えなければなりません。
さらに、人件費だけではなく、
- 光熱費
- 食材費
- 建物や設備の維持費
- ICT費用
- 車両費
- 採用費
- 社会保険料
など、事業所にはさまざまな経費がかかります。
そのため、
「介護報酬が上がった分を、そのまま全額職員の給料にできる」
という単純な話でもありません。
では、一般職との差をなくすには?
ここは非常に難しい問題です。
介護職の給料を上げるためには、事業所が職員に配分できる原資を増やす必要があります。
そのためには、
介護サービスそのものに流れるお金を増やす
という方法があります。
しかし、そのお金の財源の多くは、
- 税金
- 介護保険料
- 利用者の自己負担
などにつながります。
つまり、
「介護職の給料を上げるべき」という問題は、介護業界だけの問題ではありません。
「介護を社会全体でどの程度の価値として評価するのか」
「そのためのお金を誰が負担するのか」
という、社会全体の問題でもあります。
それでも、介護職の賃金を考える必要がある理由
介護職の人手不足が深刻になれば、最終的に困るのは介護職員だけではありません。
利用者や家族も困ります。
職員が足りない
↓
一人ひとりの負担が増える
↓
疲弊する
↓
離職する
↓
さらに人手が足りなくなる
という悪循環が起こる可能性があります。
介護の仕事は、人がいなければ成り立ちません。
どれだけICTや介護ロボットが進んでも、人にしかできない仕事は残ります。
だからこそ、
「介護職の賃金をどうするか」は、介護職だけの待遇問題ではなく、これからの介護をどう維持するのかという問題でもあるのです。
「好きで選んだ仕事だから、給料が低くても仕方ない」ではない
介護職の仕事には、やりがいがあります。
利用者さんの生活を支えること、人の人生に関わることに誇りを持って働いている人もたくさんいます。
でも、
やりがいがあることと、適切な賃金を受け取ることは別の話です。
「人の役に立つ仕事だから」
「ありがとうと言ってもらえるから」
という理由だけで、低い賃金を受け入れなければならないわけではありません。
専門的な知識や技術を身につけ、身体的・精神的な負担を抱えながら働いている以上、その仕事に見合った待遇を考えることは必要です。
介護職の賃金を上げるには「個人」と「事業所」と「制度」の3方向から考える
ここまで見てくると、介護職の賃金問題を解決する方法は一つではないことが分かります。
個人としてできること
- 資格を取得する
- より専門性の高い仕事を目指す
- 夜勤や役職など、手当のある働き方を検討する
- 転職によって待遇を比較する
- 介護以外のスキルも身につける
- 副業など収入源を増やす
事業所としてできること
- 加算を適切に取得する
- 業務効率化を進める
- ICTや介護テクノロジーを活用する
- 職員が長く働ける環境をつくる
- 採用だけでなく定着に力を入れる
- 収益性の高いサービスを検討する
社会・制度として考えること
- 介護報酬をどう設定するのか
- 介護職の専門性をどう評価するのか
- 利用者負担と職員待遇をどう両立するのか
- 人材確保のためにどこまで公費を投入するのか
この3つを分けて考えることが大切です。
まとめ
医療・介護・福祉の賃金が上がりにくい理由は、単純に「経営者が給料を上げたくないから」ではありません。
大きな背景には、
公的にサービス価格が決められていること
があります。
そして、
人件費の割合が大きい
↓
人手不足
↓
でもサービス価格を自由に上げられない
↓
事業所の収入にも限界がある
↓
賃金を大幅に上げることが難しい
という構造があります。
一方で、一般企業では人材不足や物価上昇を背景に賃上げが進んでいます。
介護職の賃金も上昇しているものの、他産業との賃金差を考えると、まだ課題が残っています。
「人の役に立つ仕事だから、給料が低くても仕方ない」
ではなく、
「人の生活を支える仕事を、これからも続けていくためには、どのような待遇が必要なのか」
と考えることが必要なのではないでしょうか。
介護職の賃金問題は、介護業界で働く人だけの問題ではありません。
将来、自分や家族が介護を必要としたときにも関係する、私たちみんなの問題です。
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